あさひ皮フ科

皮膚の患者と心

皮膚の患者と心

「皮膚は心の鏡」とも言われ
、皮膚の張りや色つやと心の状態は深く関係していると指摘されています。皮膚の疾患の治療に取り組むにあたっても、患者さんの心の持ち方次第で改善の度合いも違ってくるといわれます。

あさひ皮フ科院長
畠中 謙一

皮膚には心の状態が現れる

▼患者さんはどのような疾患の方が多いのですか。

■「湿疹」と「接触皮膚炎(かぶれ)」が患者さんの約半数を占めています。そのほかに、白癬(水虫)や膿痂疹(とびひ)、おでき挫瘡(にきび)なども多いですね。  また、膠原病や角化症、皮膚腫瘍(できもの)なども時々あります。

▼現代は、アトピー性皮膚炎が多いと言われます。

■外来患者さんにも多いですね。アトピー性皮膚炎は、子どもだけでなく成人にも多い。
三歳児の約三人に一人が、医師からアトピー性皮膚炎と言われたことがあるという調査結果もあります。
 乳児期は湿潤型湿疹で、顔や頭にできやすく、幼児期は乾燥型湿疹で、体や手足にできます。
また、成人期は全身に湿疹ができますが、特に、顔に難治性紅斑ができることが多い。  
アトピー性皮膚炎のうち、約70%は思春期までに治りますが、約30%は成人のアトピー性皮膚炎と
なって長期化、慢性化する傾向があります。

▼原因については。

■さまざまな要因が絡み、十分に解明されてはいませんが、アトピー性皮膚炎の患者さんは、日常、平凡な環境因子、例えば、家の中のダニ、ホコリ、カビ(住環境)や食事などに対して、皮膚や粘膜が過敏な反応を示す遺伝的な体質(アトピー性体質)を持つとされています。
従って、本人や家族に喘息や花粉症(アレルギー性鼻炎)などを伴っていることが多いのが特徴です。  また、心理的には「ストレス」も症状を悪くする原因の一つとして挙げられます。
 ストレスはさまざまな病気に関与していますが、「皮膚は心の鏡」と言われるように、心の状態が皮膚に影響を与えていることはまちがいありません。

▼治療はどのようにされる のですか。

■副腎皮質ホルモン(ステロイド)の外用(薬を身体の外部に用いること)、抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤の内服が治療の中心になります。この治療で、ほとんどのケースはコントロールすることができます。そのほか、光線療法、食事療法、抗生物質療法などや、さまざまな民間療法(ハリ、温水、海水浴など)もあります。

ストレスは皮膚の疾患のもとにも

▼アトピー性皮膚炎は、ストレスとも関係しているわけですね。

■例えば、アトピー性皮膚炎の不登校の子どもが無理して登校しようとして、発疹がひどくなったケースがあります。また、親が過干渉であったり、子どもを強くしかったりした場合つまり、子どもが心理的な圧迫を感じている時には、症状がひどくなっているのです。成人でも、仕事や人間関係でストレスを強く感じている場合、症状が進むケースが多いと思います。例えば、症状がひどいので入院して治療すると、驚くほど症状が改善しますが、退院して自宅に戻り、職場に復帰すると、しばらくして症状がぶり返すこともしばしばです。

▼ストレスで発疹が多くなると。

■喧騒な都会から離れて静かな土地で治療に励んだある患者さんは、とても治りが早かったという例がありました。つまり、仕事や煩わしい人間関係、騒音から解放されてストレスを感じないで治療に専念できたことと関係しているといえるでしょう。  
また、ある小学生は、入院治療をしながら、適度な運動と規則正しい生活を送り、自分のことは自分でやるという「自己規律」を図りながら自律心を育てていくことで、アトピー性皮膚炎を克服した例もあります。

▼心理的なことは症状に大きな影響を与える……。

■例えば、アトピー性皮膚炎のかゆみはストレスのもとになります。
「掻いてはいけない」と思いつつも、昼間は我慢できても、夜になると、つい掻いてしまう。その結果、「自分は意志が弱い」と落ち込み、それがまた、症状を悪化させるという悪循環を引き起こしている場合もあります。

▼「にきび」も、ストレスに関係があると言われましたが。

■思春期には皮脂の分泌が活発になり、にきびができやすくなりますが、それでも友達関係や試験などのストレスが続くとたくさんできます。生徒だけでなく、学期末など、試験で多忙になると、教師でもにきびができる人もいます(笑い)。  また、脱毛症やじんましんも疲労やストレスが続くと現れやすい……。

「自分が大好き」という気持ちが大切」

▼皮膚疾患の場合、どのようなことを心掛ければいいのですか。

■何よりも、医師の指導通りに、ステロイド剤を外用したり、指示された薬を服用することが基本です。感染症の場合には、周囲に感染させないような配慮も必要です。医師の指導を過度に気にすることはありませんが、しっかり治療を続けることが完治への近道です。 ただ治療に取り組むにあたっては、「自分を大事にする」「自分をいたわる」、そして「自分が大好き」という気持ちをもつことが大切だと思います。

▼「自分が大好きになる」というのと治療の関係とは?

■自分を好きになることで、自分に対して肯定的になります。自分はこの世界には一人しかいないかけがえのない存在なのだという尊厳観をもてれば、治療に対して積極的になれます。もし、そういう気持ちがなければ、治療にいい加減になったり、顔など、外から見える場所に疾患がある場合、周囲の目を気にしすぎて自分を卑下したり、なかなか治らないからといって悲観的になったり、粘り強く治療を続けないのは意志が弱いからだと落ち込んだりする……。

▼家族が心掛けることは何でしょうか

■疾患について、どのような病気なのかをしっかり認識することが大事です。
そのうえにたって、本人が治療を続けやすいようにしてあげる。 治りが遅い場合、家族があせってイライラすると本人にストレスを与える結果になりますから、気をつけたいものです。  もし、子どもがアトピー性皮膚炎などの場合には、かゆみが出たら、注意をほかのほうに向けてあげたり、根気強く治療に取り組めるように、温かな励ましが大切です。  例えば、「この病気があるおかげで、かゆみで悩むほかの人の気持ちが分かるのよ」―そういうのも一つの励まし方と思います。

▼皮膚の疾患の回復と心は関係している……

■そう思います。ある患者さんは、一年半ほど入院治療するほどの重いアトピー性皮膚炎でしたが、それまでの悲観的な生き方から楽観的な生き方に変わったことが、回復に大きな影響を与えました。  
ほかの病気でもそうだと思いますが、人生に対して楽観的、前向きになる時、その人の自然治癒力が発揮されるようになるのではないでしょうか。「自分が大好き」―そういう気持ちが治癒力を高め、疾患の回復に大きな影響を与えると思います。

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